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「桜、かあ……」
桜と水はどういった関係であるのが最良なのだろうか。
1LDKの自宅でソファにもたれ掛かりながらそんなことを考えた。
有名家具店で勧められた一人には大きすぎるソファは淡い色で、あぁ、これもまた、桜だ。
彼女にとってはこの色さえ私なのだろうな。
水は桜を育てる。
水がなければ桜は生きられない。
これはどの植物においても水のかけがえのなさは同じだ。
水のおかげで桜は輝き、愛され、大いに褒められる。
しかし水は誰からも褒められない。
当り前だという風に扱われ、桜を輝かせるのは水なのに、「よく輝かせてくれた」などと褒める者はいない。
だったらせめて桜だけは水を褒め、愛し、認めてあげなければならないのだ。
明日からはもっと彼女を褒めよう。
さくらという名の水である彼女を。
日記に今日を振り返りながら彼女のことを考えた。
彼女、桜ノ宮は名前が長いから、また、響きが可愛く、彼女に似合うという理由で主に職場の人間から“さくら”と呼ばれることが多い。
若くて可愛くてその上素直で親しみやすい彼女は気に入られやすく、長年私の担当をしているが、他の出版社や作家から「うちの専属に」と言われることは少なくない。
私はその度に「さくらの自由だ」と言うけれど、彼女は今までそれを断り続けていた。
その場合、私に付くより良い条件を提示されることが殆どなのに、ずっと私の傍に居てくれる。
彼女もまた、過去に囚われすぎているのかもしれない。
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