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示ちゃんは人差し指をピンと立てた。
「話は春休みに遡ります。死んだ示ちゃんはこっそり、いや、むしろ堂々と玄関から帰宅しました。兄と木葉ちゃんはさぞ寂しがっているだろうなぁって。どれだけ自分を責めちゃってるんだろうかなぁって。案の定、兄はゾンビみたいな顔をしてた。あ、どっちかと言えば私がゾンビか。あはは。それで、とりあえず兄が落ち着くまで、私が死んだという記憶だけを取ってあげたんだよ。そうしたらどうなったと思う?」
「……どうなったって?」
「あの兄、一晩経ったらすぐに思い出したんだよ。それで、青い顔して『何でお前がここにいるんだ』とか言ってきてさ。説明が面倒だからすぐに記憶を奪ってやったね。あはは」
「……どうして?」
「どうしてか? 兄は過去の木葉ちゃんの記憶と落ち込んでいる木葉ちゃんの様子を繋ぎ合わせて私の死を思い出しちゃったんだよ。春休み中、何回やっても同じだった。厄介な兄だと思ったよ。だから、兄の中の木葉ちゃんの記憶そのものをもらわなくちゃならなかったんだよ」
「……そうだったんだ」
彼は頭がいいからってことなのかな?
そう考える私の横に、示ちゃんはピタリと張りつくようにしてきた。
肘でツンツンと、私の腕をつつく。
「つ、ま、り、だよ! 木葉ちゃん!」
彼女は声を潜めた。
「え? どういうこと?」
「兄の記憶の中で、木葉ちゃんは飛び抜けて強烈なものだったってことだよ。木葉ちゃん越しに私にたどり着いちゃうんだから。まあ、この資料はナキヨビ界では持ち出し厳禁の企業秘密だけどね、兄の過去の記憶を覗き見たら、そこはほとんど木葉ちゃんで埋まっていたんだよ」
「……え?」
「私は木葉ちゃんに関する記憶を奪う心苦しさがあった傍ら、ガッツポーズをしたね! この兄なら木葉ちゃんに関する記憶をもらってもまた絶対に好きになるって思ったよ! もしかしたら木葉ちゃんのことを思い出す奇跡すら起こりうると思ったよ! ふふふ。これが私からの最後のプレゼント。さあ、言って言って。私のあの冊子のおかげだと! 早く私を誉め称えて!」
「…………」
次の声は出なかった。
好きに……って、誰が……誰を?
祐天坂君が……私のことを……
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