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この時期になると、去っていった赤い着物のうしろ姿を思いだす。
銀世界に消えてゆく赤。泣き叫ぶあのころのわたしは、この時期だけ心の奥から顔を覗かせる。
ふと、本から視線を上げると、あの日とおなじように雪が舞っていた。
家から飛びだしたのだろう、小さな足音。それを追う、もう何年も傍にいてくれる足音。
「おかあさん! つめたい! ゆきってきれいだね!」
まだまだ舌足らずで危なっかしく歩くその子は、初めての雪に興奮していた。
手を振ると、途端にほほをほころばす。
「走ると危ないわよ」と声をかけ、目を伏せた。
開いたままの本の挿絵を眺め、幼き日を思いだす。
「いまが一番幸せね」
愛する人と愛する子どもに囲まれた、ささやかな幸せを感じる。
そっと本を閉じたわたしを、母を思いだす白と赤の椿(コントラスト)がみつめていた。
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