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まるで瑣末な出来事について語るかのようなその口調に、野上はようやく笑い出した。
何かから解放されたかのようなその顔に、砂姫もまた、ほっとする。
その手に触れたくなったが、触れた途端に消えられてしまうので、仕方ない、野上を見上げて行った。
「手を出して」
「は?」
「手を繋ぐふりするから」
「……子どもみたいなこと言うなよ」
そう苦笑しながらも、野上はそっと手を差し出す。
二人の手はほんの少しの距離を置き、触れないまま繋がれていた。
その手の向こう、グラウンドの先に、赤黒い太陽がゆらめいている。
「はいはい、そんなことは後にして。
行きますよ、ぼっちゃま」
執事の声が校舎の合間に響き渡った。
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