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やがて二度目の身体の変化がやってくる。
心の変化がやってくる。
気持ちの振れ幅も変わってきて健がわたしに恋をする。
いや、それは恋ではなくて純粋な身体の欲求だろう。
何故なら第二次性徴期が訪れるまで健はわたしにそんな気持ちを抱いたことがなかったからだ。
その同じ時期にわたしも第二次性徴期を迎えていたが、わたしは健に恋をしない。
どうしてだろう。
わたしに本当の父親がいないからか。
それともわたしの視る幻視のためか。
わたしが初めて視た幻視が何だったのか、わたしはまったく憶えていない。
が、それは道理で幻視が幻視とわかるには現実と幻との区別がつかなければならないからだ。
けれども幼稚園に上がる前には見えていたはずだ。
自分にはっきりと見えるモノが他人には見えないのだと自覚したのが幼稚園のときだったから……。
幼稚園の友だちには剥き出しの丸い目玉が見えないのだ。
下半身だけで徘徊する奇妙な怪物が見えないのだ。
ときには音まで伴って笑う口が見えないのだ。
うねうねと天井を這う肺や心臓が見えないのだ。
訊ねると健にもそれらが見えなくて幼いわたしが絶望を知る。
同じクラスの幼稚園児たちに嘘つき呼ばわりされて困惑してしまう。
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