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「どうして、って、こっちが訳を聞きたいよ。何故そう思うわけ」
「知りたい」
「ここで『別に』とか言うとまた言わないんだろう」
「たぶん、そう」
「ならば聞く」
「本当に自分で気づいてない」
「だから何をさ」
「自分の寝言」
「寝言だったら気づくわけないじゃん」
「健って、ときどき明晰な寝言を言うのよ。付き合い初めに聞いたときには吃驚したというか戸惑ったけど、内容に不安は感じなかった」
「どんな内容」
「哲学的な話だったわ。現実には時間がないとか、時間は人間が発明した神と並ぶ偉大な発明であるとか、かんとか……」
「ふうん。まあ、今でもそう思ってはいるけど神様の方は迷惑な場合もあるな」
「それで一度だけ女の人が出てきたことがあって、その人の前では健は男じゃなくなるとか言ってたわ」
「他には」
「空から目が覗いているとか、後は忘れた」
「相手の名前は」
「それは言わなかった」
「ならばどうしてその相手が女であると思うのさ」
「それはその何となく……」
「女の勘」
「そんなとこかな」
「それで恵は苦しんでたんだ」
「苦しいって言うのともまた違うけどね」
「わかった。では、これからあなたに三つの選択肢を与えます。一つ、あなたが女だと思った該当者とぼくとの関係をあなたが知りたいと望むだけ話します。二つ、この話には今後互いに一切触れないことにします。その三、あなたの寝言に出てきたおそらく男の方だと思われる該当者についてぼくがどの程度知っているかをあなたに話します」
「わたしの寝言」
「お互いに変な癖があったみたいだね」
「じゃ、知ってたんだ」
「でも原因を作ったのはぼくなんだよね」
「怒ってないの」
「その点に関しては微妙。でもかなり反省したみたいだから」
「それでも結婚してくれるんだ」
「だから恵が好きだって言ってるだろ。……それから喋れば喋るほどボロが出るから早く黙った方がいいよ」
「わかったわ。でも聞くわよ。一番を……」
「いいでしょう。恵に話して聞かせやしょう」
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