日向

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「あああぁ……」    右耳の後ろにはまだアレがいる。  わたしの上にいる男は誰だ。  気配しかないが、確かにいる。  でもわたしにしか感じられない。   「はあはあはあはあ……」    そう思うと天井から腕が生えてくる。  腐った女の腕みたいだ。  しばらくすると逞しい男の腕も生えてくる。  にょきにょきにょっきりと何本も……。   「いい、いい、いい、いい……」    そんな光景を見たくないから男を誘う。  ベッドを共にするのにまるで効果がない。  まったくの無意味。  意味が無さ過ぎて笑ってしまう。  無駄無駄無駄と白けてしまう。   「ああ、逝く、逝っていいかい」    だから頭は冷静なのに身体は熱く火照っている。  快感に我を忘れることができるなら、それが一番だから。   「いいわよ、わたしも逝く」    自分で言った言葉の通りに小さなうねりが局所的に訪れる。  もちろんそれは味わうが、最大限にまで持って行こうとは思わない。  この前、気を失うほど高みに昇ったのはいつだろう。  そして誰のときだっただろうか。   「ああ、あああ……」    どうやら男が逝ったようだ。  コンドームを付けるのが条件だったから、わたしの身体の奥深くに侵入するモノは何もない。  けれども内臓に汗を感じる。  熱い臓器を冷やすわたし自身の汗か。   「重いわ」   「ああ、ごめん」    放出して空っぽになって女の上に落っこちてきて男は朦朧と気持ちが良いのだろうが、わたしにとってはただ重いだけだ。  それでも気分によっては数十秒間我慢できるが……。  今日はダメだ。  セックスが上手くないのはたぶんお互い様だから、そのことについて文句は言わない。  でも男よ、わたしはおまえの下僕じゃない。   「シャワーを浴びてくるわ」    言うと男が唇を求める。  体毛の少ない腕を伸ばして、わたしの顔を自分の顔に引き寄せる。  その仕種が滑らかだったから、わたしは男にキスを許す。  でもディープじゃない。唇の先を軽く触れ合わせるただけだ。
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