71人が本棚に入れています
本棚に追加
1-10
勤務時間が終わるのを見計らったように、白いティオが医務室に現れた。
離れていたのは、ほんの数日なのに、懐かしいとさえ思う。
すっと紙を差し出した。
「主の署名、ください」
事務的に、それだけを言う。
私が反対しているのはわかってるから、なのだろう。
「カシクに世話になってるんだって?」
何も、答えない。
「あまり、面倒かけないようにね」
紙を受け取って、署名する。
ティオは断られると思っていたのだろう、びっくりな顔をした。
署名した紙を差し戻すと、思いがけなく、ふわりと抱きついてきた。
「……ティオ?」
ほのかに甘い、赤斑の香りがする。
「……あなたが好きだ」
耳のそばで苦しげに、小さくささやく。
「うん……、私も君が好きだよ。行っておいで地上へ」
ふわ……、と真っ赤になった。
「い、イグノトルさま……っ」
「ごめんね、ティオ。補助してあげられなくて」
そっと離れて、私の両手をつかまえる。
最初のコメントを投稿しよう!