1 本当のこと

8/9
前へ
/107ページ
次へ
1-10  勤務時間が終わるのを見計らったように、白いティオが医務室に現れた。  離れていたのは、ほんの数日なのに、懐かしいとさえ思う。  すっと紙を差し出した。 「主の署名、ください」  事務的に、それだけを言う。  私が反対しているのはわかってるから、なのだろう。 「カシクに世話になってるんだって?」  何も、答えない。 「あまり、面倒かけないようにね」  紙を受け取って、署名する。  ティオは断られると思っていたのだろう、びっくりな顔をした。  署名した紙を差し戻すと、思いがけなく、ふわりと抱きついてきた。 「……ティオ?」  ほのかに甘い、赤斑の香りがする。 「……あなたが好きだ」  耳のそばで苦しげに、小さくささやく。 「うん……、私も君が好きだよ。行っておいで地上へ」  ふわ……、と真っ赤になった。 「い、イグノトルさま……っ」 「ごめんね、ティオ。補助してあげられなくて」  そっと離れて、私の両手をつかまえる。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加