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ふと、青年は小さな笑みを浮かべた。
「けど……少し思い残す事があるとすれば、それはこの世界の行く末を見届けられない事だ。こればかりはどうしようもないけどやはり見届けたかった」
青年は言い終えるとゆっくりとその場で振り返って女性と対面する。
その表情は穏やかではあるがどこか寂しげに現実を見ていた。
やはり彼にも後悔はあった、それだけが彼にとって一番に悔やまれるもので今更白紙にするのは叶わない。
そんな青年を前に魔術師は告げる。
「……ならその望み、私が代わりに果たすのを約束しよう」
「え……」
「言葉のままさ、君が死した後も私が代わりにこの世の果てまで見届けよう。なに、この身は君達人間と違って寿命は永遠に等しい。隠居生活でもして見守ろう」
その台詞が正気のものとは思えない程に馬鹿げている、少なからず普通の人間には到底 理解はできない。
しかし青年は静かに頷いた。
彼は魔術師が何者なのか知らない、ただそれでも共に戦い、道を示してくれた恩人という理由だけでその言葉を信用する。
それが冗談であっても信じてしまう人間性の男を前に魔術師は相変わらずな反応に呆れながらも安堵していた。
彼は最後まで彼のままだ。
人間は目の前の死や大切なものを奪われた時に少なからず恐怖を抱くもの、でも青年はそれを思わせない。
恐怖以上に何を抱いているのかは魔術師でもわからない。
ただ言えるのは彼はただ理由無く信じてくれている。
「……そろそろお別れの時かな?」
「そう……だね。もうこれで最後になる」
そう言いながらゆっくりと歩み出す青年は女性の前で立ち止まる。
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