プロローグ

4/4
前へ
/20ページ
次へ
その別れに涙はない。 彼の最後に言葉はいらない。 王は命を代償にした万人を救う未来を選び、行末を見届けられない彼に代わって魔術師がその願いを叶える。 二人の間にこれ以上と交わす言葉はなかった、お互いに微笑を浮かべながら魔術師は青年の煌めく金の髪を撫でた。 「ではまた会おう、救世の王よ。次に会う時はこういった形ではなく普通の親友になれる事を祈るよ」 「……未来を頼むよ。マーリン」 呪いの契約によって彼の身体は血肉を残さぬよう微粒子の光と化して肉体的に存在が文字通りに消える。 そこに痛みはない、ただ意識が遠のいて自身が消滅する瞬間を慣れない違和感に似たのを感じる。 それでも不安はなかった。 未来は彼女に任せる……信頼する最愛の魔術師である彼女に託して。 最後の一瞬まで見逃さなかった。 彼は笑っていた、本当に心から満足して逝ってしまった。 あのあどけない笑顔が愛おしく側に居たいと、愛情さえ寄せていた魔術師は消え逝く光の粒を手の平に包み込みそれを抱き締めた。 「約束は果たすよ。だから君とまた会えるその瞬間まで私は貴方への感情を抑えて未来を見届けよう」 世界を染める茜色の大空にマーリンは告げる。 「また会おう、アーサーよ」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

439人が本棚に入れています
本棚に追加