序章

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青一面と広がる雲一つない空。 天から差し掛かる太陽の日差しは大地を照らし、まだ肌寒い冬の時期には微かながら心地の良い暖かさを感じさせる。 1月16日、土曜日の昼時となる休日に雪解けのぬかった庭で一人、少年は古い木箱を両手に抱えて物置として扱っている小さな蔵から運び出す。 吐息は白く、身体が冬の寒い朝の環境に慣れていないせいか時折身震いしながら少々早い足取りで縁側に丁寧に置く。 「いらなくなった物は処分!」と一週間前に母親から大掃除命令が発令されて今日の為に友人からの誘いを断った少年、天宮 拓人……はとても気分が良いと言える状態ではなかった。 休日に大掃除をするから……という訳ではなく、むしろ家族一丸となって敷地内の掃除ならば彼は喜んでそれを引き受ける程にやる気が満ちていた。 そう、“家族一丸”となっていればの話だ。 父親は休日出勤で三つ下の妹は午前中部活動で学校へ、それは以前から知っていた事実だからまだ良い。 しかし社会人の姉と母親はスケジュール的に空けているはずだが“二人揃って仲良くショッピング”と言い残し、天宮家では現在長男一人だけが作業進行中。 来年には受験生、高校生活を残すところ約一年となり色々と忙しくなる準備期間を前にして貴重な休日は労働により終わりそうな。 「全く……言い出しっぺがいないとか、自由奔放すぎるぞ」 微かな怒りを顕にするよう「夕食は二人のおかずを少なくしてやろう」などと小さな復讐心を声にして誓う。 兎にも角にもだ。 家にいるのは一人、泣き言や愚痴を言っていても作業は終わらない。 現状を受け入れて気持ちを即座に戻すと拓人は処分する予定の物を蔵から運び出す為、来た道を戻るように足を運ぶ。
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