序章

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処分する物にはあらかじめ札が貼ってある。 ガラクタが乱雑に置かれた木箱、壊れてしまった自転車、再利用目的か何かで保管されていたまま縛られた分厚い新聞紙の束。 極めつけは「いつかまた使うかも!」と言いながら既に二年以上も放置されたまま忘れられていた母親の大小様々なダイエット関連の道具。 主に母親の処分する物ばかりでその量はうんざりするほどに。 理不尽にも思えるその量に拓人も投げ出して自分のやりたい事をやればいい……とは思わず“彼の悪い癖”が始まる。 少年は作業を再び進めると一言も文句を吐かず、ただただ黙々と処分予定の物を持ち運んでは片付けて一切手を緩める事をしなかった。 半端押しつけられた作業も、たとえそれが一人でこなすには無理がある量だとしても「誰かの為に力になりたい」という思想が少年の身体を働かせる。 親が不在なら家事をこなす。 友達から助っ人を呼ばれれば断らずにその手を取る。 どんな些細なことも彼は誰かに求められれば助けるのは当たり前で必要なものと思えば口よりも先に足が動く。 肌寒い気候も身体を動かすことで熱が体内に巡り、額に僅かな汗を流させると拓人は一息をついた。 「この調子なら夕方頃には片付くかな」 昼も過ぎれば部活動から帰宅した妹も手伝ってくれるだろう。 それまでにある程度の目処が立つよう作業再開に木箱へ手を伸ばす……その時だった。 「……なんだこれ……?」 何気なく不意に横目でそれを捉えた。 薄暗く見えづらくはあったが視界に入れたそれはコンクリート製の壁に描かれた青文字の円形の何か。 円形の内側には六芒星を思わせる線が複数に描かれており、外側には円をなぞるよう文字が書き込まれている。 その文字はとても読めた物ではない。 魔法陣を思わせるそれはラクガキにしては手の込んだ完成度の高いものだった。
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