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その旨を告げると、母はちょっと寂しそうに笑った。
「多分、会いに来てほしいんじゃないかしらね。もう何年もおばあちゃんの所には行ってないから」
だから、若い頃の姿でウチに来た?
自体がまるで判らなくて、さらにアレコレ聞こうと母を見る。でも、母は俺を見てはいなかった。アルバムの写真に視線を落とし、いっそう淋しげな顔を見せる。
「…もう、これが最後かもしれないものね。母さんの好きな百合の花、持って行くわ」
俺の母ではなく、祖母の娘に戻った母がそうつぶやく。
俺が見た人影の話にも動じなかったし…母と祖母の間には、何どもこういうやりとりがあったのかな。
「今年のお盆の休みは、久しぶりにおばあちゃんの所に行くわよ。…あんたもちゃんと一緒にね」
念を押され、なんとはなしの迫力にうなずく。その際に、ふわりと何かが香った気がした。
強い花の匂い…百合、だろうか。
その匂いを嗅ぎながら、ぼんやりと、今度の対面が祖母との今生になるんだろうと考えた。
白い訪問者…完
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