白い訪問者

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白い訪問者

 家に着く寸前で、ウチのお客さんらしき人を見かけた。  後ろ姿だから顔は見えないけれど、白い帽子と白いワンピース、体の輪郭からはみ出した百合の花が目を引いた。  印象だけでも綺麗そうな人だけど、誰だろう。  見とれていると、声をかける間もなく相手は家に入って行った。  すぐに追いかけたが、玄関先にはもう誰もいない。 「今の、お客さんは?」  家に上がると台所に母がいた。お客が来た筈なのにどうして対応してないのか。この時は不審にも思わず、お客のことを訪ねると、不思議そうに首を傾げられた。 「お客? 誰も訪ねてなんて来てないわよ」  そんな筈はないと食い下がり、俺は、さっき見かけた女の人のことを母に話した。すると、ふと何かに気づいたような顔になり、母は台所を後にした。  程なく、奥の部屋から呼ばれ、行ってみると、そこにはアルバムらしきものを広げた母がいた。写真を見るように言われ、アルバムを覗き込む。  映っていたのは、多分俺が見かけたあの女の人だった。白い帽子に白いワンピース。百合の花束を抱えている。 「これ、誰?」 「おばあちゃんよ」  母方の祖母には数回しか会った記憶がない。  あまり体が丈夫ではないとかで、昔から空気の綺麗な田舎で暮らしており、訪ねるのは数年に一度程度だ。  しかし今はそんなことはどうでもいい。  だって、俺が見かけたのは、顔は見てないけれど多分若い女の人だ。写真がそっくりでも今の祖母があんな恰好で家に来る筈がない。そもそも、誰も来てない訳だし。
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