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「遅れました」
「あ…」
アマテラスに跨った千尋さんが少しの高さの場所からひらりと降りて、私達の間に立つ。
思わず後ろに何歩か下がると、正親さんが私の背中をそっと支えてくれている。
「どうだった?」
「一定の高さからは制限がかかっているのか上がれませんでした。が、まだ上が続くのを見る限り、出口があるとしたら上空でしょう」
(上…でも上がれない)
「結局泉はここ一か所だけか」
確かに今まで進んできたところにはなかった泉がここにはある。
「だけどすくえないのでは意味がない」
(そう…すくえない)
手には水気を感じるのに、空の容器を入れても中身は何故か満たされない。
口に含んでもただの水で、特に怪しい感じはないのに、どうしても汲み取ることは出来ない。
「とりあえず休憩だ。さっきからいつもならうるさいヤツもおとなしくなってる。頃合いだな」
(斗真くん……)
いつもならここで正親さんに文句の1つも言いかねないはずの張本人は、一瞬怒ったように口を開きつつも、言葉を言うことなく閉ざされていく。
その様子にさすがの千尋さんもおかしいと思ったのか、先を急ぐような言葉は言わなかった。
「…ごめん」
替わりに聞こえたのは少し申し訳なさそうに言う斗真くんの声で、だけど理由を聞こうとすれば、何でもないとあっさりと背を向けてしまう。
「ここで休憩するなら何か火種になるようなもの探してくる」
「あ……」
会話を打ち切られて、後は背中を見つめることしか出来なかった。
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