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澤村が厳しく言い放てば、同じような声色で返される。
その言葉を聞かなくても彼の行動が本気と覚悟を持ったものなのは見てわかったが、リンゴを見つめてどこか諦めたかのように、でもわずかに安堵するような複雑さをもった表情を見せられれば、澤村でなくとも問い詰めるような言葉になってしまうだろう。
「あなたはまだくだらないことにこだわっているのか?」
「違う」
「どう違うんだよ!あんたのその態度を見りゃ誰だってそう捉えてもおかしくないからな!!」
「違う!」
滅多に聞かない大声に思わず体が反応すると、今度は一転、澄ませなければ聞こえない程小さな声で囁かれる。
「……頼む……。どちらかは生きてくれ……」
(穂積……)
「ゆずるは守りたい。だけど……」
言葉はそれ以上続かなかった。目を伏せて何かに諦めているような顔からは涙は浮かんでこなかったが、気持ちは痛い程伝わってくる。
『お前達も犠牲にしたくない』
(どうして…願いは両立しないのだろうか)
それ程自分達は多くを願っているのだろうか。
彼女を守りたいと、そして彼女が無事願いを叶えることを傍で見守りたいと、ここにいる全員で叶えてやりたいと。彼女を思って立てたはずの誓いに似た願いは、それでもまだ多過ぎると運命は告げてくる。
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