LASTQUEST:Ar tonelico

44/84
前へ
/934ページ
次へ
守るのは1人で、事の結末を見守れるのはただ唯一。後はその道となるべく犠牲になることしか許されない。 「オレは……やだからな……やだ…」 「澤村…」 乾いたと思った涙が再び流れだし、頬を濡らしていく。重たくなった息を吐けば、いつの間にか自分の頬にも水気を感じる。 大事になるとは思わなかった。他人を煩わしいと思わなくなり、心を開いた先に新しい世界が広がっていたのを知ることが出来た。 そんな自身の変化に戸惑いつつも、満たされなかった部分が満たされていくのを感じていた。 だから、どれ程辛いことでも、最後まで誇りを失わずに行けるだろう。初めて他人を信じられると思えた。 初めて他人を、これ程大切で愛おしいと思えた。 「……」 伝えきれない想いの代わりに静かに滴がぱたりと落ちる。澤村が名前を呼び、穂積が息を呑んだのが聞こえたが、何故か羞恥心は沸き上がらなかった。 「他の方法…が……」 泣きながら続ける澤村の言葉に、己の口元がわずかに上がるのがわかった。 「それがないことは君が1番よくわかっているんだろう」 「っ!……だ、って……」 いつもなら子供じゃないと背伸びをしていた彼の、隠しようがない本音。だがそれを子供っぽいと馬鹿にする気持ちは露程もなく、むしろここまで思ってくれていたことに、言いようのない温かさが胸に飛来してくる。
/934ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1794人が本棚に入れています
本棚に追加