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守るのは1人で、事の結末を見守れるのはただ唯一。後はその道となるべく犠牲になることしか許されない。
「オレは……やだからな……やだ…」
「澤村…」
乾いたと思った涙が再び流れだし、頬を濡らしていく。重たくなった息を吐けば、いつの間にか自分の頬にも水気を感じる。
大事になるとは思わなかった。他人を煩わしいと思わなくなり、心を開いた先に新しい世界が広がっていたのを知ることが出来た。
そんな自身の変化に戸惑いつつも、満たされなかった部分が満たされていくのを感じていた。
だから、どれ程辛いことでも、最後まで誇りを失わずに行けるだろう。初めて他人を信じられると思えた。
初めて他人を、これ程大切で愛おしいと思えた。
「……」
伝えきれない想いの代わりに静かに滴がぱたりと落ちる。澤村が名前を呼び、穂積が息を呑んだのが聞こえたが、何故か羞恥心は沸き上がらなかった。
「他の方法…が……」
泣きながら続ける澤村の言葉に、己の口元がわずかに上がるのがわかった。
「それがないことは君が1番よくわかっているんだろう」
「っ!……だ、って……」
いつもなら子供じゃないと背伸びをしていた彼の、隠しようがない本音。だがそれを子供っぽいと馬鹿にする気持ちは露程もなく、むしろここまで思ってくれていたことに、言いようのない温かさが胸に飛来してくる。
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