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温かいものは、心の中にあった氷を静かに溶かし、こうして止めようのない涙となって流れ出ているのならば、それを止める手だてもまた、ないのだろう。
(でも何故だろうな)
死ぬのが怖いと言う気持ちは、何故かない。
ただ、大切なものが悲しみ、この場に残していくことが辛い。
「穂積、平等に決めましょう」
「…じゃんけんでもしようってか?」
「そ、それでもいい!だから!マサはとりあえず置け!!」
乱暴に涙を拭きながら、澤村が今にも先に犠牲になろうとする穂積を制止する。
(全く汚いな…)
呆れたように笑いながらも、やはり最後まで徹底的に隠し事をするのが好きなようだ。
(わかっていないと思っているのか)
実は視力が非常にいい事も、それが過ぎるがゆえに眼鏡で世界を遮蔽せざるを得なくなった事も、彼は最後まで自分達に告げる事はしない。
隠しているつもりならばここであえて言及はしない。だが、圧倒的に有利になるその方法は、許さない。
「いえ、これで決めよう」
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