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その音を聞いて少女がわずかに身じろいだが、再び規則的な眠りについたのを見て、口元を固く結ぶと、許可を表す方へ指を進める。
― 以上 2名 ノ データ ヲ 完全ニ 消去 シマシタ -
そのアラームと同時に今まで残されていたメールも、パーソナルデータも、何もかもが消去されていく。
喪失を恐れる少女の中から、さらに消していく。それが正しい事だとわかっていても、願いだとわかっていても、自分の記憶のだけにしか残らない罪の儀式は、痛みを伴う。
少女が受け止め切れない悲しみまでを背負って先に行ってしまった者達を思えば、自然と口をついて出ようとした悲鳴を、噛み殺すように唇をきつく噛んで抑えていると、空から最後の審判を下すためにやってきたかのように、翼を持つ影が降りて来る。
「………ゆずる、起きろ」
「……ん……」
「起きろ。…行くぞ」
「あ、れ。正親さん……?」
全てを呑み込むように顔を天高く掲げ、大きく息を吸いこんだ。
信頼していた仲間を犠牲にし、穂積 正親は最後の希望と全てを託された。
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