0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
鋭い痛み。全身を駆け抜けるような。触れる場所、風、自分の鼓動ですらカールは痛みにのた打ち回っていた。角が地面に触れる。自分はどうしてしまったのだろうか――。
余りに突然な激痛に体が悶える。目は開いていられなかった。近くでデルフィナの声がする。
愛しい人。幼いながらに共に一生を誓った相手。激痛の中、何度として彼女の名前を叫んだだろう。仮に自分が死んでしまっても、魂に彼女を刻みたい。
そう思いながら、カールは運ばれたテントの中で過ごしていた。
激痛からどれくらい経っただろう。食事など摂れるわけもなく、ただ痛みに絶叫し、のた打ち回る。
「カール! しっかりして、私がついてるわ。大丈夫だから! カール!」
遠くで愛しい人の声がする。手を、手を握ってほしい。差し伸べた手は空を切ってしまう。
視界が暗くて見えないんだ。だからせめて……手を握っていてほしい。
「ナッ――――!」
絶叫が果てて、声にならない声が明るいテント内を照らす。暴れないようにカールはぐるぐる巻きに拘束されていたが、それも6日の晩には治まっていた。
「俺は、死んだのだろうか」
幼いながら死を想う。そう言えば、誰かの名前をずっと呼んでいた気がするんだ。でも――思い出せない。誰だったのだろう。
身体が重い。筋肉が痛い。お腹が空いた。喉がからからだ。
様々な欲求を抱きながら、彼は一番に言いたい言葉を出せないでいた。こう、痛みが引いたら、何かを言いたくて誰かに触れてほしかった。
グルグル巻きにされた体のまま、枯れた声で彼は誰何した。とても暗い。きっと深夜なのかもしれない。でも、誰かいるはず。そう考えていると、テントを開く音がする。
「誰か、いるの?暗くて見えないんだ。明りと、できれば水が欲しい。喉が乾いて仕方ない」
「カール! 意識が……痛みはもうないの?」
縄が解かれると突然、なにか柔らかい温もりに包まれる。女の子に抱きしめられてるんだ。そう思った。思い出せない、でも懐かしい匂い。それでも知らない場所でこんなことになってるなんて。カールという人はいつ来るのだろう。気配は彼女しかいない。
「あ、ごめんなさい。私ったら嬉しくてつい!」
「いいんです。縄、解いてくれてありがとう。ところで、さっきよんだカールさんは何処に?」
「え?な、なに言ってるの、カールは貴方の名前でしょ。そんな、冗談はやめて」
最初のコメントを投稿しよう!