淵と梯子

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あ~ なんかね 深い深い淵の前に立っている人がいます 悲しくて可哀想で変わりそうでがたがたで きつくて気持ち悪くて嫌われそうでぎりぎりで 悔しくて苦しくて腐りそうでくたくたで 消したくて卦体糞悪くてけしかけそうでげそげそで 恐くて困って壊れそうでこなごなで 胸は締め付けられて 切なくて切なくて切なくて 一体何でこんな風になったんだろうって… 繰り返し考えてみても何も変わらない事だけが解るから 深すぎて真っ暗な淵の前に立って 真っ暗すぎて何も見えない淵の奥を追いつめられた顔で覗きこんで 淵の下を覗く瞼にはじわじわと… 悲しみが滲んでくる 滲んだ悲しみがどんどんどんどん込み上げてきて ぶるぶるぶるぶる身体が震えて 瞳からは涙 鼻からは鼻水 喉からは嗚咽 が ひっきりなしに噴き上げてくる なんかそんな人がね 深い深い淵の前に立っています その人は悔しくて悔しくて その人は苦しくて苦しいまんま 周りを見渡したの そしたらさ 自分の横に梯子が倒れていてさ その人は 悔しくて苦しくて切なくてやりきれなくて情けない気持ちを振り絞って 梯子を掴んで淵に投げ込んだの パタン てさ えっ てなってさ 真っ暗で見えない淵の先は案外近いらしくてさ 梯子が橋渡し 倒れた梯子の両脇に杭を打ってさ こちら側をしっかり結んで手元足元に注意してさ恐々と渡ってみたらさ 少し周りが見えてさ 何か特別に素晴らしい場所だった訳でもないんだけど 淵を渡る為に いろんな事をやっている内にさ なんか気持ちは 嘘みたいに すっかり軽くなってたんだって その人が言うにはさ 「淵なんて通りすぎてしまえば何でもないよ」 だって…
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