雨の日。本を読む。

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手に入れた時にはピカピカだった表紙も ずいぶん手垢がついたし草臥れた それでも愛着のある 一冊の本は 私が読もうとしなければ 一頁も進まない 人間だから ただ読みたくない時もあれば 疲れて読めない時も 病気で読めない時も 心が苦しくて読めない時も ある それでもこの本は 知らぬ間に頁が進んで 何よりこの本は 時折、物語が急展開する時を除いては どの頁も似通っていて まったく代わり映えしない どちらかと言えばつまらない 本で それでも頁を開いてしまうのは 画かれた風景がどれも綺麗で まったく代わり映えしないのに それが空であっても陸であっても海であっても川であっても谷であっても田畑であっても道であっても太陽であっても星であっても月であっても人であっても動物であっても植物であっても まったく完璧な美しさで それが ガードレールであっても電信柱であっても鉄塔であっても線路であってもダムであってもトンネルであってもスクラップであってもアンテナであっても古びた寺であっても錆びたトタン屋根であっても苔むした井戸であっても忘れ去られた公衆電話や赤ポストであっても空地のドラム缶であっても転がる空缶であっても まったく美しすぎる風景で いつも絶妙に違う色のバランスなのに いつも微妙に違うニュアンスを伝えて それだけで この本は頁を捲る価値がある と 思うのです
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