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私にとっての一大事件から数ヶ月。夏も終わり、季節はもうすぐ冬を迎えようとしていた。
あの日を境に、彼女と会話する機会もなくなり、やがてサークルにも顔を見せなくなった。
浮かれていた自分を呪い、完全に嫌われたと思い込み、学生生活そのものに力が入らなかった。
重い気持ちのまま、キャンパスへ向かうと、突然後ろから背中を拳で突かれたかと思うと、今度は大きな声を出され、体が震え上がった。
「おいっす!」
クラスメートの桧原だった。
「(びびった…)おいっす…。」
「何だおめー!元気ねーな!女に振られたか!」
ある意味当たらずとも遠からずといったところだが、そこはさすがに隠して見せた。
「いや、別にそんな…」
桧原は割り込むように話し出した。
「おめー、世界中が地獄ですって顔してるぞ!女に振られたんだったらエロビデオ3本借りてきてヌけ!それで終わりだ!ぎゃはは!」
完全に他人事だと思って面白がっている。
実は桧原とは小学校で面識があり、何度か遊んだ記憶がある。
中学・高校は違ったので存在を忘れていたが、偶然同じ大学に合格していた。
それからというもの、常に桧原とつるんでいた。
桧原の言う事は一見ふざけて聞こえるが、的確なアドバイスをくれる、唯一無二の親友だ。
「ま、あんま思い詰めるなよ。人は縁だからな。」
「ん?ああ。わかってる。」
実はよくわかっていなかったことを桧原は見抜いていた。
「…。まあいいや。今日メシ行こうぜ。放課後待ってろよ。じゃあな。」
桧原はそう言うとこちらの返事を聞かずに行ってしまった。
(そうだよな。切り替えよう。ビデオは借りないけど。)
そう思い直し、改めてキャンパスへ向かった。
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