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その日の夜、私は桧原と近所の定食屋で夕食を取った。
「んー!塩サバうめー!」
大人からすると対したことのない定食屋だが、学生の私たちにはリーズナブルで重宝する店だった。
あまり食の進まない私に対し、桧原は細身の割に大食いだ。気持ちよいくらいガツガツ食べている。
「で?どうよ?そのなんだっけ?ユミさんだっけ?」
「ユキ。名前で呼ぶな。」
「あー、そうそう。そのユミかおるさんと、その後どうなんよ?」
桧原はボケを突っ込むまでひたすらボケ続けるので早めに突っ込んだ。
「ユ・キ。そもそもかげろうお銀ではない。そして名前で言うな。」
私は事あるごとに桧原にいろいろ話していた。会話のキャッチボールに卓越し、秘密は必ず守ってくれる。そして的確なアドバイス。
私の中では絶対的な信頼があった。桧原に裏切られるようなことがあれば、私はもう、人成らざるもの、差し詰め鬼ににでもなって生きるしかない。
私はその後、彼女と会えていないことやサークルに来ないこと、自分の今の気持ちを全て桧原に話した。
「ふーん…。ま、来ないのは仕方ないだろ。だって就職活動だもんな。」
いつの間にか桧原は塩サバ定食を平らげており、爪楊枝を加えていた。
「それにさ。結局は返事を何も聞いてないなら、終わってもいないだろう。ましてや始まってもいないぞ。」
「ま、そう言われるとそうだけど…。」
「彼女は彼女で忙しいんだよ、きっと。お前は気持ちを伝えてるんだったら、ちゃんと何かしらで返してくれるよ。」
私は黙ってテーブルに頬杖をつき、ため息をついた。
「まあ、向こうももうすぐ4年で、単位取って就職決まればちゃんと来るから。安心しろよ。」
私はいつの間にか泣きそうになっていた。
彼女の気持ちがわからない不安と、桧原のアドバイスの有り難さが混ざっていた。
「おめー、泣くなよ!それくらいで。俺は足の小指をタンスの角にぶつけても泣かねえぞ!叫ぶけど。ぎゃっはー!」
桧原の励ましがより響き、声には出なかったが、私は涙を流していた。
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