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「パパぁ?準備できた?早く行こうよ!もう出発の時間だよ!」
息子の声が玄関から聞こえてきた。
「ああ。今行くから先にママと車のところで待っていなさい」
坂口は息子にそう促し、玄関に置かれた車のキーを握り、玄関を開けた。
外はひぐらしが鳴き始めている。
エンジンをかけ、車を走らせる。
ラジオから懐かしい歌が流れており、坂口はハンドルを握る手でリズムを取りながら鼻歌で歌い始めた。
「なんだっけ?この曲。聴いたことあるね。」
「虹の都へ。高野寛の曲だね。昔有線でよくかかってたよ。」
おぼろげ程度だが、助手席の妻も体を軽く揺らしながらリズムを取り、楽しそうだった。
「ねえママ、今日はどこに行くの?」
後部座席から身を乗り出して息子が妻に尋ねた。
「今日はね。パパが昔行ったところにお泊まりするんだよ~。」
「ほんと?おさかなさんいるところ?」
まだ幼稚園に上がって間もない息子は、どこかに泊まるということしか認識していなかった。
「海じゃなくて山だからカブトムシはいるかもよ。」
「やっぱり夏休みは田舎よね~。」
喜ぶ二人の姿を見て、坂口は幸せだった。
しばらく車を走らせ、高速道路を降りると坂口の妻は窓を開けた。
外から流れ込む風の匂い。見覚えのある景色に、坂口は昔のことを思い出していた。
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