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その年の夏休み、サークルでの合宿が決まり、当然私も参加した。
そこは県境にある山中の避暑地としても有名な場所だ。
湖のほとりにある樹齢千年の巨木が観光スポットになっていて、コテージなどの宿泊施設やキャンプ場も完備されている。この季節には観光と我々のような合宿でよく使われているそうだ。
ここへは数台の車に分かれて向かったのだが、私は残念ながら彼女と同席にはなれなかった。
当然、私はいちばん年下なので、荷物持ちやら準備をさせられる。
「坂口!早く荷物降ろせ!降ろしたらすぐ練習の準備!」
部長の声が響く。向こうの方では彼女が同学年の先輩と楽しそうに何かを話していた。
私はほんの少しだけしか彼女を見ていなかったつもりだが、その視線に気付いたのか、こちらに手を振った。
「坂口くーん!頑張ってー!」
その一言だけで俄然やる気が出た。
準備までは行えたが、練習の気力がなかった。練習後の夕食とお楽しみのパーティーの準備をしておくことで練習は免除となった。
さすがに大勢の食事の準備には時間がかかる。
コテージのダイニングで早くも明日の準備をしていた彼女が私を手伝ってくれた。
「ふふ。何か坂口くんがマネージャーみたいだね。」
「そんな感じですね。俺、運動神経ないし、体力もないから。」
彼女が私から包丁を取り上げ、食材を調理してくれた。
「去年まではね、ずっと私ひとりで全部作ってたんだよ。」
「マジっすか?部長も結構ひどいっすね。」
彼女は笑顔のまま続けた。
「私も坂口くんと同じで、スポーツ苦手だったから。」
「えっ?じゃあ何でサークル入ったんですか?」
リズムよく音をたてていた包丁が止まり、彼女は私を見た。
「うーん…。きっと、坂口くんと同じ理由だと思うよ。」
私は少なからずショックを受けた。
自分と同じということは、誰か好きな人がいる、ということだ。
「あー…、同じ…ですか…。」
「ん?違ったのかな?」
私はショックを悟られまいと慌てて
「あ、いえ、そう言うんじゃなくて…。」
その後の言葉を消すように、火にかけていた鍋が吹きこぼれそうになった。
「あち!あっちー!」
ユキは私の慌てふためく様子を見ながら笑っていた。
「あははは!やだ、坂口くん!大丈夫!?」
私は少しだけ、いや、かなり嫉妬したが、それでも彼女といられる時間が幸せだった。
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