新月の悪夢

4/7
前へ
/9ページ
次へ
玄関も、ベランダにも、カギはかけていたはずだと、そう思っていた。 うっすらとしかない意識の中でも、彼は割と冷静だったのかもしれない。 だけど、自分の上に座る女がいることに、彼は疑問を覚えた。 しかも、絶世の美女といっても過言ではない。 目は細いが、とても形が美しく、その瞳は水晶玉のよう。 スーッと通る鼻筋は、嫌みではない高さで均整がとれているし、その口はちょうどいい大きさで、ぷっくりと厚みのある唇が妖艶な雰囲気を醸し出している。 その顔の輪郭を覆うように流れる髪の毛は、まるで金糸のように美しくて、触りたくなる。とても長いのに、全く傷んでいる様子がないのだ。 「何でこの部屋にいるんだ?」 男は、その疑問を口にした。 『あなたが私を求めたからよ』 美女の声は、とてもつややかで、この世のものとは思えないほど。 言っていることは不可解ではあるが、男の欲を刺激するような、官能的な響きをはらんでいた。 「呼んだ?僕が?」 その問いに、女は「ええ」とだけ答える。 そう言う女の口元は、まるで誘っているかのように艶っぽかった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加