新月の悪夢

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ドキリ、と心臓が跳ねた気がした。 今目の前には、人生の中で巡り逢えるかどうかさえ分からないような美女。 限りなく妖艶で、魅惑的なその容姿。見つめているだけで、甘い香りが漂ってきそうな美しさ。 例え美女ではなくても、男は自分がそう言う対象に見られていないことを知っていた。 どちらかと言えば、嫌われているのも。だから── 「行く場所を間違っているのでは?」 それが本音であった。 『間違えていないわ。わたしから見れば、あなたはすてきだと思うもの』 「そんなことはないですよ。僕は、偏屈だって言われてますし…」 『そういうものじゃないの。「わたしたち」の中での価値は、見た目や性格のよさではないわ。どれだけため込んでいるかが重要なのよ』 うふふ、と妖艶に笑い、熱い視線を送ってくる。 その視線が絡み合い、男と女の間でしか交わらない独特の空気が漂い始める。 『我慢しなくてもいいのよ?私は逃げたりしないわ』 そう言いながら、唇を男へと近づける。 甘い甘いジャスミンの香り。 その香りを吸い込んだ男の理性は、そこでパチンと弾けた。
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