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具貫はどうなのかはわからないが、少なくともトウサはそのように思った。勝ちたくないし、負けたくない。
願わくば何度やっても同じ数字で引き分けてほしい。自分がもし勝っても、具貫という恩師を傷つけたくはないし、傷つけられるはずがない。
同時に、苦楽を共にした恩師である具貫も同じ思いであるとトウサは知っていた。いざとなった時、恐らく具貫は自らを賭してトウサを庇うだろう。
それが、マツリを救おうとする彼の態度に出ているではないか。
【5】
トウサが色々な思いをはせている内に辿り着いた、具貫の数字である。
『グッチ大先生、【5】! 折中トウサぴょんは【8】! ラウンド1はトウサぴょんの勝ちぃ~! では行ってみましょうかッッ、ハンマートウサ!』
トウサは震える手でハンマーの持ち手を手にし、歯と歯を何度もぶつけ懇願するような目で具貫を見詰める。具貫は笑うこともなく、怒ることもなく、かといって悲しいわけでもない、ニュートラルな表情でトウサを見つめ返す。
ほんの少し持ち上げたハンマーが、トウサの手の震えを伝えるようにカチカチとテーブルを鳴らしていた。
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