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「いいんだ、折中。思い切りやりなさい」
真っ直ぐと見詰める具貫が放った一言に、トウサの視界は滲んだ。
『お前は筋がいいな、将来は音楽の仕事が向いているんじゃないか?』
先ほどの具貫がした演説で出たダンスパフォーマンスの練習時、彼がトウサに言った一言だ。トウサは、その言葉をずっと覚えていた。
結果的に現在、訳あって音楽の仕事に就いてはいない。音楽を勉強した訳でもない。だが、彼女の中で具貫がくれた言葉がずっと心にひっかかりを作っていたのだ。
――いつか、音楽に携わる仕事に。
漠然と、ぼんやりながらトウサはそんな夢を持っていた。
それをトウサは、目の前で真っ直ぐと自分を見詰める具貫を見て急に思い出したのだ。
何気なく過ぎてゆく毎日に溺れて、具貫のくれたそんな心を支えていたはずの言葉を忘れていた自分を恥じると同時に、激しい後悔が彼女を襲う。
「グッチ……あたし、本当は音楽の仕事……やりたかったんだ。でも、でもね……出来なくて……」
「いいんだ。大丈夫、折中。ちゃんとやらないとまた後悔することになるぞ」
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