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ステージ上の二人を見守る同窓生たちの耳には、彼女らの会話は届かない。だが、遠目で観るその様子にただならない空気が流れていることは、肌で感じていた。
わずかにハンマーを持ち上げるトウサが本当に具貫の左手を打つのか、そんなことが本当に起こってしまうのか、折中トウサというよく知る同窓生が、恩師である具貫の左手を傷つけるのか――。
コオリや同窓生たちは、よくない夢を見ているようだった。
時が止まってしまっているかのような錯覚は、頼りない音で唐突に終わった。
「ぐっ……!」
具貫の呻き声とすぐあとに「ご、ごめんグッチ!」と謝るトウサの声。
具貫は打たれた左手の甲をさすり、「よくやった、折中」と笑った。
「グッチ……」
トウサは、具貫の笑顔につられて笑う。
『なぁ~んか、シケシケの結果となりました! でも一発目はこんなもんでいいかなー、女の子だしねぇ~。でも一発は一発! 次のラウンド行ってみよ!』
トウサが振り下ろしたハンマーは、明らかに躊躇いを纏っていた。ゆえに具貫の左手を襲ったハンマーは、ごく弱い力だったのだ。
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