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笑い声は、王様のものだけが会場に響き、嗚咽を漏らしつつすすり泣く声と痛みに呻くマツリの声だけが羽虫の幼虫のように這いまわる。
「なんで一人だけは生かす? 意味があるのかよ……」
ミハルが悔しそうに唇を噛んだ。
「……生きて帰すとは限らない」
「どういうことだよ」
王様に聞こえない程度の声でミハルが聞き返し、コオリはしゃがんでミハルの顔の高さに自分の顔を合わせる。
「最初から全員殺すつもりかもしれないってことだよ。『一人だけ生き残れる』って言っておけば、自暴自棄になって自殺するやつや他の奴を殺す奴も抑止できるだろ」
「……へぇ、俺じゃ考えつかない理由だ。お前もしょっちゅうそんなこと考えてるのかよ」
コオリは驚いた顔でミハルを見た。
ミハルの切り返しは、字で見ると少しの悪意がるようにも取れるが、彼は少し笑いつつ冗談のつもりで言ったのだ。
コオリはそれを分かっていたから、この状況で冗談を言えるミハルの肝の坐り方に驚いたのである。
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