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僕には毎朝かかせない日課がある。
隣りに眠る弟を起こす。それが僕の日課。
先に起きているくせに、僕が声をかけるまで絶対に目を開けない。
「瑞紀、朝だよ、起きて。」
軽く揺すれば思ったとおり、一度甘えたように胸にすり寄ると、すぐにぱっちり開いた目で下から見上げてくる。
「・・・ふふっ・・・おはよ兄さん。」
「こらっいつも言ってるだろ。同じ顔に兄さんなんて呼ばれたくない。名前で呼べよ。」
「はぁい。と・し・き。」
「よく出来ました。」
そして頭を撫でてやれば嬉しそうに肩を震わせた。
今日から新学期。
長い休みの間に僕達は二度入退院を繰り返した。
生まれつき心臓の悪い僕らはずっとそんな生活を送っている。
中学生になって少しは丈夫になってきたんだけど、やっぱり夏の暑さはこたえる。
夏休みが終わっても、まだ夏は終わらない。
今朝も相変わらずの暑さ。
「今日くらい送っていきましょうか?」
エプロン姿の母さんが心配そうに顔を出した。
「いいよ。大丈夫。」僕たちは久しぶりの制服を着て玄関を出た。
「「いってきまぁす。」」
「いってらっしゃい。気をつけるのよ。」
「「はぁい。」」
エレベーターを降りてマンションの外に出る。
夏の日差しが眩しい。
学校までは歩いて20分くらい。そんなにたいした距離でもないけど、室内環境に甘やかされていた身体にこの暑さはやっぱりきつい。
教室にたどり着いた時には二人ともフラフラになっていた。
「よっ久し振り。・・・大丈夫か?顔色悪いぞ。」
「・・・実(みのる)。おはよ、何とかね。」
「・・・おはよ・・・」
実は小学校からの友達で、いつも俺達は助けてもらってる。
背の低い僕らが背の高い実と話をするとずっと見上げっぱなし。結構辛いんだよね。
「瑞紀・・・保健室に行くぞ。」
「やだよ。せっかく学校来たのに、もったいないよ。僕平気だよ!」
「そんな青い顔して言われたって説得力ねぇよ。ほら行くぞ。」
「あっちょっと!」
実は瑞紀の抵抗をものともせず、問答無用とばかりに手を掴むと、引きずるようにして教室を出た。
僕もあわてて二人を追って教室を出る。
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