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結局瑞紀は保健室に拘束され、ついでに強制送還になるらしい。
ずっと渋っていたけど、とうとう観念したようで今は大人しくベッドに入っている。
校医の先生は僕のことも心配してくれていたけど、見た目だけなら瑞紀より丈夫に見えるから、正直辛いけれど何とかごまかせた。
僕もせっかく来たんだから帰るのはもったいないと思う。瑞紀には悪いけれど。
僕と実は、瑞紀を残して廊下へ出た。
さっきからなんか実の様子がおかしい。
「・・・。」
「・・・。」
「何か怒ってる?」
暫くの沈黙のあと恐る恐る聞いてみる。
「・・・俺にはお前のほうが具合悪そうに見える。」
「・・・。」
「今年になってからおかしいぞ。何かに焦ってるように見える。」
向かい合い両腕を掴んで顔を覗き込んでくる実に、心臓がドクンと大きな音をたてる。
「別に焦ってなんか・・・」
「寿紀は嘘つく時、目そらすの癖だよな。」
実に隠し事は通用しない。
面倒見の良い実は人の心の動きに敏感で、いつも見透かされてしまう。
それを不快と思ったことはないけれど、返答に困ることはしばしばだ。
「やっぱり、焦ってるのかな・・・。」
「無理には聞かないよ。俺が言いたいのは自分の身体も少しは大切にしろってこと。いつも瑞紀のことばっかり気にして、見てるこっちがはらはらする。」
僕と瑞紀は生まれたときから一緒で、離れたことはない。
僕たちの間に隠し事は一切ない。それが当たり前のことだったし、約束だった。
でも、僕は一つだけ瑞紀に隠していることがある。
「・・・実。僕の頼み聞いてくれない?」
「何だよ。」
瑞紀は何より大切な僕の弟。
瑞紀さえ幸せならそれでいいと思ってる。
それが僕の幸せでもあるから。
「もしもの時は瑞紀のこと頼むよ。」
「もしものって・・・何言ってんだよ!?ばかなこと言うな!」
「知ってるだろ?僕達の体は悪くなるのも良くなるのも一緒。だけど実際は違う。先に体調を崩すのは僕のほう。で、先に良くなるのは瑞紀。つまりはそういうことだよ。僕はいつか瑞紀を置いて行くことになる。」
「・・・瑞紀は知らないんだよな、そのこと。」
僕は静かにうなずく。
「部活とか、頑張るのはいいけど無理してるんじゃないか?」
「そんなこと無いよ。僕は好きなことしたいんだ。合唱部は僕の生き甲斐の一つだよ。」
「何か年寄り臭いな。」
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