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「あたしが実は男だってことを」
「えっ、冗談だろ」
「残念ながら本当なのよ。だからアパートを探すのが大変で……」
「アパートを」
「名前は偶々男女共通だから良かったけど、ホラ、住民票とか、戸籍謄本だとか」
「ああ、そういうことか。でも、ちょっと待ってよ」
「あのね、あたし身体は男だけど心が女なの。でも面倒臭いことに女として女が好きなの」
「ああ、確かに面倒だな」
「うん。でも仕方がない」
「風呂の件はそれか……」
「そう。ずいぶん前からホルモンを使っているからペニスは小さいけど、でも反応するし……」
「わたしには大変だとしか言えないな。家族は……」
「否定と肯定が半々ね」
「わたしがそんなことを言い出したら父が発作を起こすだろうな」
「あたしのところもそれよ」
「知らないうちに薫に襲われたりしてないだろうな」
「実はちょっとだけ唇を……」
「えっ」
「嘘よ。何もしていないわ」
「ああ、吃驚した。脅かすなよ」
「あたし、やっと今、月島さんに想いを告げたの。つまり諦める気はないの」
「まさか、それで……。もしかして薫はわたしと玖珂さんとのことを知ってたのか。それで、この部屋に現れる前に玖珂さんにコンタクトをして……」
「どんな人か知りたかったのよ。それに月島さんを単に利用しているようなら懲らしめようと思って」
「でも薫の眼鏡に叶ったのね」
「悔しいけど、そう。だけど月島さん、不倫は……」
「言われなくても、いけないことだって知ってるよ」
「そうよね。でも……」
「わたし、覚悟はしてるんだ。いつかはわからないけど、いずれわたしは玖珂さんと別れる。だからそうなれば薫がわたしを狙うのは自由だけど、でもとても可能性があるとは……」
「いいえ、スタートラインに立てるだけでも、あたしは大歓迎よ。ありがとう、月島さん」(了)
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