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 わたしが玖珂貢(くが・みつぐ)に連絡をしないのは彼が現在日本にいないからだ。  だが、それはわたし自身に対する言訳で本当は電話がかけられない関係だからだ。  簡単に言えば不倫。  まさか自分がそんな面倒な恋をするとは付き合う前には思っていない。  玖珂はわたしの会社の国際部長だ。  月の三分の一は日本から近い韓国あるいは遠いブラジルと何処かしら海外にいる。  だから日本に帰ってくれば妻と二人の娘たちの相手でわたしを構う暇などないはずだが、月に一度か二度、裸に剥かれる。  悔しいことに彼はセックスがかなり上手い。  手と舌だけで逝かされたことさえ何度もある。  わたしの性体験数は少ないが、だから彼を上手く感じるとは断言できない。  身体の相性というものがあるらしいが、それがぴったりのようだ。  冗談は言うものの、玖珂は本質的に真面目人間だ。  彼がプレイボーイだったら、わたしは疾うに彼と別れていたはずだ。  現時点で、わたしは彼と別れたくて仕方がない。  ……と同時に彼に抱かれたくて仕方がない。  彼との行為の間、普段のわたしは消えてしまう。  ただの恋する女に変わるのだ。  だから薫に言ったわたしの言葉は嘘ではない。  クールを装うわたしとしては沽券にかかわるので嘘にしたいが、今はまだそれができない。  また、いつできるようになるか見当もつかない。 「どうしたの、月島さん。急に難しい顔をして」 「いや、わたしの彼がアポなく急にこの部屋に現れたら薫をどうしようかと思ってさ」 「追い出すの」 「思案中」 「終わった頃に帰ってくるわ」 「簡単に言うけど気不味いぞ」  彼がこの部屋に来て帰った後、わたしが朝まで蕩けているとはとても言えない。 「確かにね。どうしようか」 「まあ、そのときに決めるさ」
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