第1章

3/16
前へ
/16ページ
次へ
少女が玄関を開けると、一人の男が立っていた。雪に、土に、枯葉に塗れた緑のアウトドアウェアを身に纏っている。背中には薪のようなリュックサックを背負い、見るからに重そうだ。 「こんにちは。このような辺境の地に人とは珍しい。どうされたのですか」 少女は唄うような口調でそう問いを投げた。すると、目の前の男はボソボソと話し始めた。 「私はどうも、道に迷ってしまったらしい。持ってきた飯は遂に尽きてしまっているし、それに何やら吹雪いてきそうな気配だ。悪いが、今晩はここに泊めてくださるとありがたい」 少女はそれはそれは愛想の良い笑みを口許に浮かべて、労いの言葉を口にする。 「あらあら、それは大変でしたねぇ。外は凍えますでしょう。どうぞ、中にお上がりくださいな」 「申し訳ありません。ありがたい限りです」 男はそう染み入るように言うと、アウトドアウェアに纏わりつく諸々を払い落とし、招かれるがままに中へと入った。 先程少女が読書をしていた座敷へ案内されると、男はやっとこさ荷物を降ろし、疲れたとばかりに胡座をかいた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加