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「ふふ、お疲れのようですね。この通り、何もない質素な家ですが、せめて身体だけでも休めていってくださいな」
少女はクスクスと笑うと、「お茶をお出ししましょう。少しお待ちくださいな」と、座敷を静々と後にした。
男はその後ろ姿を見て、一息ついた。
ーーなんと美しい人だろう。
美人とはこうである、とでも言いたげな一目見ただけでは貶めようもない端正な顔立ち。少々あどけなさが残ってはいるものの、それさえも少女の醸し出す怜悧な雰囲気の一部と化していた。もし仮に粛々と冷える秋の夜、朧月を眺め物思いに耽ようものなら、誰しも絵に描き残したいと思うことだろう。
山登りの途中に道を見失った時はどうなるかとヒヤヒヤとしたが、まさかこの様な人里離れた山中に家がーー、しかも、少女が住んでいるとは思いもしなかった。
男はもう一度溜息をつき、改めて部屋を見渡した。
座敷内には座卓があるのみで、その上とて花瓶に一輪の花が添えられ、後は本が一冊大人しく置いてあるだけである。余りにも寂しい。年頃の少女であるのならもっと部屋が色気付いても良い筈だ。好きなアイドル、俳優のポスターや少女嗜好のぬいぐるみが置いてあってもおかしくはない。それが正常だ。少なくとも、男の中の認識はそうだった。
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