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「ゴメンね、僕、携帯持ってないんだ。」
この言葉を発したとたんに、水を打ったように静かになる瞬間がいやだ。
今や、携帯を持っていないという言葉は、あなたとはコミュニケーションを取りたくないという発言に等しい。
「へ、へ~、珍しいね。今時。不便じゃないの?」
女の子は明らかに様子がおかしくなってきた。
僕は今、会社の連中に無理やり誘われた合コンに人数あわせで来ている。
こうなるから嫌だったんだ。僕は断ったのに、同僚に目の前で手を合わせられて
「お願い!一人どうしても足りないんだよ。ちょっとだけでもいいから。」
と懇願されたのだ。
こいつらの魂胆はわかっている。どうせ僕は通信手段を持たないのだから、女の子たちから
対象として除外される。とりあえず人数あわせで僕を入れておいて、自分達の当確を高めようってわけ。
僕は愛想笑いをしながら、席を立つ。トイレにも行きたくないのにトイレに立つ。
「あ、私も。」
僕のあとから、女の子たちも女子トイレに向かった。おそらくお化粧直しだろう。
僕は、トイレに誰もいないのを見計らって個室に閉じこもった。
「何よ、あの男。ちょっとかっこいいからって勘違いしてね?」
「電話番号交換しよって言ったら携帯持ってない、ですって。みえみえの嘘よねえ。」
「そうよ。いったい合コンに何しに来てんだか。」
「ああ見えて、童貞だったりして!」
「そうかも~。それでアタシたちに恐れをなして。キャハハハハ。」
女子トイレからの会話筒抜けだよ。
僕はやはり勘違いされてるんだな。僕は女の子達の会話を聞いてげんなりした。
僕だって正常な男子だ。女の子と付き合いたいし、エッチなこともしてみたい。
ちなみに童貞ではない。初体験は高校2年の時だ。
全ては、携帯の機種変更から始まったのだ。
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