似て非なる花

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B「お嬢様、本当に綺麗なカンツバキですわね」 舌を噛みそうだと思いつつ、私は覚え立ての花の名を口にしてみた。 A「これはさざんかよ」 春枝(はるえ)お嬢様は静かだが、どこか鋭さを含んだ声で答えた。 B「え?」 先ほどあの方ははっきり「カンツバキ」と仰ったはずだ。 私と同じ名前の花のわけがない。 A「椿のように不吉に落ちるのではなく、さざんかは風のままに散るのが良いそうよ」 お嬢様の目は小雪のちらつく窓の外に注がれている。 B「そうですか」 所詮は花の話だろう。 A「わたくしといても、あの方はお前の話ばかりするの」 誰もいない雪の路地を見詰めたまま、お嬢様はぽつりと呟いた。 B「きっと、粗相ばかりするからですわ」 あの方がお見えになると、なぜか落ち着かない気持ちになる。 A「お前は何も知らないのね」 ちらついていた雪が、わずかにだが勢いを増してきた。(了)
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