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僕がまだ、4つか5つの頃の話だ。
僕の家には、バイオリンを弾く母のために、防音の部屋があった。
毎週水曜日の午後4時に、二軒隣りの学生が、母からバイオリンのレッスンを受けるために通ってきていた。
その時間が、僕は待ち遠しかった。
その学生が決まって、チョコレートやドーナツなどの甘い菓子を手土産に持ってきてくれるからだ。
その学生と防音の部屋に入る前に、母は必ず僕に言い聞かせた。
「ぜったいに、この部屋のドアを開けてはいけませんよ」と。
僕は、母と学生が防音の部屋にこもっている間、甘い菓子を食べて待っていた。
だが、あるとき、僕は、ジュースの入ったコップを倒してこぼしてしまい、それを知らせようと、つい、防音室のドアを開けてしまった。
そのときに見た母の姿を、僕は未だに覚えている。
あのときから、僕はどうも女の人がだめなのだ。
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