十六夜(いざよい)

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久我はそんな月子を何も言わず黙って見下ろしていた。 でも、月子が耳をつける久我の心臓は、一度跳ねるように動いて、次にはドクンドクンと大きな鼓動を奏で始める。 月子は目をあげて久我を見る。 だけど久我の髪も目の色も真っ黒のままで、それが少し寂しく思った。 久我は月子の肩に腕を伸ばして、一度ぐっと強く抱いた。 でも、すぐに離してしまう。 「?」 月子が不満を込めた瞳で久我を見れば、久我はふっと目を細めて少し笑う。 「ごめん。今からちょっと出なくちゃならない」 申し訳なさそうに言った。 久我に予定があるのなら仕方がない。 もともと約束せずに訪ねてきたのは月子の方だ。
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