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プロローグ(新月)
目の前にいきなり、鉄の馬が喰らいつくように迫ってきて、
「ひゃああああ!」
月子は気の抜けたソプラノ歌手のような悲鳴をあげた。
すると鉄馬は一瞬のうちに鼻面の向きをかえ、スクラップ工場にいるような音をたてひっくり返る。
黒いボディに青いタンクの大きなバイクだ。
バイクが転がっているということは、当然、乗っていた人も転がっているというわけで……、
「ごめんなさい。ごめんなさい。だ、大丈夫ですか!」
縁石のギリギリ側に転がっているフルフェイスのヘルメットに向かって、月子はずりずりと尻を滑らせる。
おどろいて腰が抜けてしまった。
右腕を下にして横たわっている男は、自分を抱きかかえるような仕草で固まっている。
スモークがかかったシールドが邪魔で顔が見えない。
月子は思い切ってシールドを引き上げた。
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