十六夜(いざよい)

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「ところで、ばあさんはどうなんだ?」 コーヒーを飲んでいると、久我はゆるゆると聞いてくれた。 気にしてくれたことが、月子にはとても嬉しい。 でも、今の状態を語ろうとすると、表情が曇る。 「まだ退院のメドがたたないんです」 検査を重ねれば重ねるほど、祖母には新たな病気が発見される。 毎日繰り返される検査も辛そうだ。 でも月子には、そんな祖母を励ますことしかできない。 だから、 「でも、今すぐにどうこうってことはないんですよ」 医者から聞いて、一番安心できたことを久我にも教える。 祖母の前で作る笑顔も見せた。 すると久我は長い腕を伸ばしてきて、ポンポンと月子の頭を撫でる。 「お前も、頑張ってるんだな」 ここに来て初めて、久我の目をじっと見つめた。 あれほど会いたくてたまらなかったのに、いざ来てみると、どうしていいかわからなくなった。 気まずい。 これは気恥ずかしいだけじゃなく、久我と面と向かう自信が月子にはなかったのだ。 あの日、確かに久我から貰った言葉が、まだ信じられない。 でもいまやっと、夢ではなかったのだと実感する。 「もう、手放せない」 そう言って月子を抱いた久我の腕を思い出すことが出来た。 月子はようやく、本当の笑顔を浮かべながら、床に手をついて尻を滑らす。 久我の側に身を寄せた。 「うん。頑張りました」 久我の胸にそっと頭を預けた。
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