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「ところで、ばあさんはどうなんだ?」
コーヒーを飲んでいると、久我はゆるゆると聞いてくれた。
気にしてくれたことが、月子にはとても嬉しい。
でも、今の状態を語ろうとすると、表情が曇る。
「まだ退院のメドがたたないんです」
検査を重ねれば重ねるほど、祖母には新たな病気が発見される。
毎日繰り返される検査も辛そうだ。
でも月子には、そんな祖母を励ますことしかできない。
だから、
「でも、今すぐにどうこうってことはないんですよ」
医者から聞いて、一番安心できたことを久我にも教える。
祖母の前で作る笑顔も見せた。
すると久我は長い腕を伸ばしてきて、ポンポンと月子の頭を撫でる。
「お前も、頑張ってるんだな」
ここに来て初めて、久我の目をじっと見つめた。
あれほど会いたくてたまらなかったのに、いざ来てみると、どうしていいかわからなくなった。
気まずい。
これは気恥ずかしいだけじゃなく、久我と面と向かう自信が月子にはなかったのだ。
あの日、確かに久我から貰った言葉が、まだ信じられない。
でもいまやっと、夢ではなかったのだと実感する。
「もう、手放せない」
そう言って月子を抱いた久我の腕を思い出すことが出来た。
月子はようやく、本当の笑顔を浮かべながら、床に手をついて尻を滑らす。
久我の側に身を寄せた。
「うん。頑張りました」
久我の胸にそっと頭を預けた。
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