プロローグ(新月)

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思わず差し伸ばした手を引っ込めると、男は顔をそらすようにして、左手をあげてヘルメットのシールドをおろす。 「大丈夫だから、救急車はいらない」 顔が見えなくなったヘルメットの奥から聞こえるのは日本語だ。 とりあえず言葉が通じることに安心して、 「でもさっき痛いって言ったじゃないですか、どこか怪我してますよね」 そう言って詰め寄ると、男は億劫そうにゆっくりと上体を起こした。 アスファルトの地面に膝をたてて座る。 そして首のベルトのバックルを外すと、左手だけで不自由そうにヘルメットを脱いだ。
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