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男の右袖は、引きちぎれてボロボロになっていた。
その下から皮膚を無理やり剥がしたような無残な傷口が見える。
そこから血が絶え間なく滲んで流れていた。
「ご、ごめんなさい。やっぱり救急車」
月子が慌ててスマホを操作しようとすると、
「ちょっとすりむいただけだ。こんなの大丈夫だから」
男は言う。
でもけして『ちょっと』程度な傷口ではない。
「でも――」
月子が続けて言い募ろうとすると、男は首を振って月子を止めた。
「たいしたことない。それより君は?」
聞かれて、月子は慌てて立ち上がる。
「大丈夫です。それにバイクには当たってないから」
突進してきたバイクに驚いて腰を抜かしただけで、別に痛むところもない。
男は少し安心したように息をついた。
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