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男は脱いだジャケットを腰に巻いたまま、ヘルメットを持ち上げる。
「君に怪我がないなら、俺はもう行くから」
腕の血がジャケットのつくのを嫌い、そのままでバイクを走らせるつもりらしい。
でも12月の空の下、アンダー一枚ではちょっと寒すぎるだろう。
「待ってください」
「なんで?」
男はヘルメットをかぶってしまう。
とたん、顔が見えなくなり、あまり感情がわからない低い声が、怒っているように聞こえた。
月子は慌てて、バイクにまたがる男の側に駆け寄る。
首元にぐるぐる巻きにしていたマフラーを解いた。
男が傷を負った右腕側に回り込むと、傷口の上から包帯替わりに巻きつけた。
「これで血はつきませんから、ちゃんと服を着てください」
寒いだろうと思ったのだが、触れた男の腕は、発熱しているように熱い。
月子のいきなりの行動に、男は戸惑っているのだろうか。
黙って月子を見下ろしている。
やがてマフラーを巻き終えて、月子が一歩さがると、
「ありがとう。じゃあ」
それだけ言って、バイクを発進させていってしまった。
男の右腕で、月子が巻いたマフラーのフリンジがひらひらしている。
「ホントにごめんなさいっ!」
月子は男の背中に向けて叫んだ。
寒いはずなのに、男の盛り上がった肩甲骨はそんなことを感じさせないくらいだった。
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