Side:A

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 他に靴音はしない。全くと言っていいほど。  念には念をと言う言葉通り、辺りを見回してから一気に自宅であるマンションに駆け込んだ。  母方の叔母さんが、気を使ってくれたのである。私自身、この高校に通いたかったから、近い所のマンションを借りてくれた。叔母さんには何から何までお世話になっていて、本当に頭が上がらない。  そんな恩人である叔母さんに、ストーカーのことを相談してみた。本音を言うと彼女に心配はかけたくなかったのだが、それを上回るほどに憔悴(しょうすい)しきっていたのだ。  すると、思いがけない提案をしてくれた。 「じゃあ、監視カメラを置けばいいわ」  正直な所、盲点だった。  自分で何とかしなければならないという思いから、視野を自らで狭めていたとは。  監視カメラ、と一口に言っても最近の物は凄いのだ、と叔母さんは告げる。  安いのもあるけど、可愛い杏璃(あんり)ちゃんが、困っているんだから、とかなり高いものを買ってくれたのだ。  これは、どれだけ頑張っても、一生かかっても、返しきれない借りである。  何度も何度も、叔母さんに感謝の言葉を伝えた。彼女の言動に裏があろうがなかろうが、私は彼女に救われたのだ。それは、紛れもない事実だ。
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