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「自分がどうしたいのかぐらい、はっきり言いなさいよ!」
唯月にしては珍しくイラッとして、ついきつい言い方をしてしまいハッとした。でも、時既に遅し。
渚の目は見る見る涙で潤んで、今にも溢れそうだ。
後悔と苛立ちが錯綜する。
――男のくせに。
ついそんな風に思ってしまう。
渚はキュッと口を真一文字に引き結んで涙を堪えようとしたが、意に反してポロッと一筋、右目から頬を伝っていった。
一瞬、睨み合ったような2人だが、実はそれぞれかなり動揺していた。
唯月は他人を泣かせてしまったという罪悪感でショックを受けていたし、渚は好きな子に涙を見られた羞恥心でこの場から逃げ出したいと思った。
2人を救ったのは2時間目の終了を告げるチャイムの音。
3時間目までの休み時間は『中休み』と言って20分間もあるから、外で遊んでいいことになっている。
日直の『起立、礼』の号令とともに頭を下げた子どもたちは、机と椅子をガタガタ鳴らして教室の外へと飛び出して行った。
「唯月ちゃん、どうしたの? 船越、泣いてたよ?」
靴箱で外靴に履き替えながら、志乃がためらいがちに尋ねた。
クラス一おとなしい志乃とクラス一目立つ唯月が親友だというのは傍から見ると不思議らしい。
「私だってビックリした。まさかあれぐらいで泣くなんて思わないもん」
そう言いながらも唯月はウサギ小屋へと駆け出していた。
最近、ショコラの具合が良くないらしい。
ウサギ小屋の白いウサギたちの中に茶色いショコラの姿が見えなくて、唯月はしゃがみこんだ。
「いた」
「寝てる?」
「おなか痛いのかな?」
奥の方で寝ているショコラを覗き込みながら、心配そうに2人は話していた。
「船越が泣き虫なんだよ。唯月ちゃんが気にすることない」
なんとなく黙ってしまっていた唯月は志乃の言葉に驚いた。
ショコラのことを話していたのに、なんで私が船越のことを考えているってわかっちゃったんだろう。
おとなしくていつもニコニコしている志乃は、成績はあまり良くないのに洞察力がある。
唯月はそれにとっくに気が付いていた。
だからこそ2人は親友なのかもしれない。
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