3-河南が可愛い

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河南が可愛い。 雑貨屋で河南の肩に手を置いて、ちょっと高いところに置いてあったレザー小物を取っただけなのに、なんだかトロンとした顔をしている。 オレと密着したのがそんなに嬉しかったのか? まあ、間違いないよな。 わざと顔を寄せて話しかければ、落ち着かない様子でキョドキョドし始めた。 ピュアで可愛い。 香やアロマなどのコーナーに移動すると、河南がやたらとクンクン嗅ぎ比べをしたがる。 犬みたいで可愛い。 けど、すぐ鼻がバカになったらしく、変な風に顔をしかめていた。 背後から手を回し、鼻休めのために置いてあるコーヒーの香りの入ったボトルを嗅がせてやる。 急に手が伸びてきたのに驚いたのか、後ろに一歩下がった河南の背中が俺の胸にぶつかった。 ……。 自分から胸に飛び込んでくるなんて積極的だな。 物が多く狭い店内では人の目が届かないから、イチャつきたくなったのか? 俺は一向にかまわないぞ。 河南の腰に腕を回してコーヒーのボトルを嗅がせていると、 「もういいからっっ!」 と、手を軽くパシパシと叩かれた。 ネコパンチ。可愛い。 「アロマ、好きなのか?」 「いや、別にっっ?」 好きでもないわりには、随分熱心に嗅いでいたようだが。 「高遠は、なんかつけてるのか?」 「ああ、貰い物のフェラガモだ。ユニセックスな香りで結構気に入ってる」 「フェラ……?」 ……そこで止めるな。 フェラガモを知らないのか。 やっぱりバカは可愛い。 「フェラ……なんとかって、どこで売って……あ、貰い物って言ってたか」 フェラ『ガモ』より『なんとか』のほうが長いぞ。 「結構どこでも置いてるけど、今つけてるのは雑貨屋では取り扱ってない。なんだ、香水が欲しいのか?」 「えっ?いや、別に。オレが香水とかありえないだろ」 「ま、そうだな」 素直に相づちをうったら、ちょっと不本意そうな顔をされてしまった。 なんだ、やっぱり欲しいんじゃないか。 でも確かに河南は香水ってガラじゃない。 少し記憶を辿る。 ……あそこならいいか。 別のショップに移動しようと河南の手を握った。 歩き始めると、河南に手をグイグイ引かれる。 俺と手をつないで歩くのがそんなに嬉しいのか? はしゃぐ河南、可愛い。 連れてきたのは、さっきのごちゃごちゃした店と違い、明るく女性の多い雑貨の専門ショップだ。 ソープや入浴剤などが数多く揃っていて、その並びに練り香が置いてあった。 俺が手を伸ばしたのは爽やかなグレープフルーツ系の練香だ。 河南にはブランド香水より、こういったものの方が似合うに違いない。
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